栃木県足利市の北端、関東平野から足尾山地が始まる標高400メートルほどの山腹に、関東四霊場の一つに数えられる閑静な佇まいの古刹がある。
行道山 浄因寺(ギョウドウサン ジョウインジ)。
開創は今を遡ること約1200年前、和銅7年(714年)奈良時代の高僧、行基(ギョウキ)上人によると伝えられている。
その後、足利三代将軍義満により法徳禅師を請し、臨済宗の禅寺として再興された。
室町時代には学問の道場として修行僧が多く集い、「関東の高野山」と呼ばれた。
鬱蒼たる老杉が眼前に迫る、本堂へと続く長くて急な石段を往く。 傍らを流れる小渓流の水のせせらぎと自らの足音のほかに聞こえるものはない。
しばし立ち止まり、静寂と杉風の涼を愉しむ.。 |
参道から奥の院に向かう境内には、その数3万3千体といわれる大小様々な石仏たちが、微笑みかけるような穏やかな表情で、訪れる者を静かに迎えている。
巨岩上に建てられた「清心亭」とそこに架けられた「天高橋」は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師、葛飾北斎によって「日本十奇矯」の一つ「足利行道山、雲のかけ橋」として描かれ、紹介されている。
清心亭、熊野社を見下ろし、秋も深まり色づき始めた草木を眺めながら、少々険しい山道をさらに登る。
突然眼の前の展望が開け、尾根筋に出る。少し汗ばんできた胸元を、心地よく涼風が吹き抜けてゆく。
足利市街が一望できる山頂に近い「奥の院」には、右腕を枕に西向き(西方極楽浄土)に横たわる「寝釈迦」や多くの石仏が、岩場の頂に無造作に置かれている。
ここは、行基上人が分骨入定した聖地だそうだ。 |