JR伊東線、来宮(きのみや)駅から北に50メートルほど線路沿いの坂道を下ったあたりに、来宮神社はあった。
熱海鎮座の来宮神社は江戸末期まで『木宮明神』と称され、現在の『来宮』ではなく、『木宮』の字で古文書等に記されている。古代の日本民族は、大きな木、岩、滝など巨大な自然創造物に神々が宿っていると信じ、その自然創造物の前で祭祀を行い、感謝し祈りを捧げる神籬磐境信仰を持っていた。
伊豆地方に『キノミヤ神社』という社は十数カ所あり、各社とも必ず千年以上の御神木があることから、『木』に宿る神々をお祀りする神社として崇敬を集めていたようだ。
神社の裏山に大きい楠木があり、根本は洞穴の様になっている。昭和8年2月、時の文部大臣、鳩山
一郎が日本最樹齢の樟として国の天然記念物に指定した。樹齢2000年以上、周囲23.9メートル、高さ26メートル以上と板書きされていた。神社の御神木(ヒモロ木)であって、太古はこの楠へ神の霊をお招きして神をまつっていたそうだ。
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楠(樟)はクスノキ科、常緑の大形高木。5月に黄色の小花をつけ、果実は直径8ミリほどの紫黒色であんずに似ている。南方の温暖地に育ち、よい香りがする。虫除けで知られる樟脳(ショウノウ)はこの材を蒸留したものだ。材質は堅くて水に強い上質の建材で、弥生時代の丸木舟などの出土例もある。
昔「河津郷七抱七楠」と呼ばれていた7本の大楠の中で現存しているものは来の宮神社のこの1本だけだそうだ。
正面左の幹は1974年の台風で地上5メートルのところから失われてしまったという。残念なことだ。折れ口が腐らないようにと貼られたトタン板がなんとも痛々しい。
樹齢2000年の大楠の生命力にあやかり、近くで見ると巨大な岩のようであるこの木の幹を1周するごとに1年寿命が延びるといわれている。また、願い事を口に出さずに心に秘め一回りすると願い事が叶うと信じられている。朝方で人も少なかったので、願い事をたくさんしながら10周ほどしてしまった。後で知ったのだが、願い事は一つだけだそうだ。ご利益は、果たしてあるだろうか。心配になってきた。 |