中央アルプスの茶臼山北壁に源を発し、松本盆地で梓川と合流する奈良井川は、南下する西の木曽川、東の天竜川に挟まれた中を北上する。
その流れに沿うように、南北に細長く1キロ以上にわたり風情ある宿場町が続く。江戸時代には「奈良井千軒」と言われるほど繁栄していた中山道有数の宿場だ。
奈良井宿は中山道67宿中、江戸側の板橋宿から数えて34番目、京都側の守山宿から数えても34番目であり中山道のど真ん中の宿場町であった。
木曽路の難所、標高1,197mの鳥居峠を控え、ここを越えるため、または越えた後の旅の疲れを癒し、その先の道中支度を整えるために宿をとる多くの旅人で賑わったのだろう。
鳥居峠の上り口の鎮(しずめ)神社を京都側の入口とし、上町、中町、下町に分かれ、上町と中町の間に鍵の手がある。通りの山側には横水水場、下城水場など5カ所の水場があり、冷たくておいしい水が飲める。
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奈良井建築の特徴は、2階が通りに面して1尺(30センチ)ほど突き出た出し梁(だしばり)造りに千本格子、猿頭(さるがしら)のついた鎧庇(よろいひさし)、蔀戸(しとみど)、白漆喰の袖卯建(そでうだつ)等々。
さりげない彫物などを含めて先人の技術と美意識の高さを感じさせる独特の工夫がこらされている。
昭和53年5月に、国の重要伝統的建造物群保存地区の選定を受け、当時の町並みがそのまま保存されている。 そこには、江戸の面影を現代に色濃く残すため、町民自らが住み続けながら、先祖代々の伝統と遺産を大切に守ってきた様子がうかがえる。
また、江戸時代から曲げ物、櫛、漆器などの木工業が盛んで、旅の土産物としても人気がある。平成元年には建設大臣の「手づくり町並み賞」も受賞した。
時間がゆったりと流れているようで、のんびり町並みを眺めながら歩いていると、まるで江戸時代の旅人になったような錯覚にとらわれた。
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