相模湾に面した平野部に、こんもりとした丘陵群が、ぽっかり浮かぶ島のように連なっている。
湘南平は、平塚市と大磯町にまたがる敷地面積約140ヘクタールの広大な高麗山(こまやま)公園西端の頂にあり、神奈川県の景勝50選に選ばれている。
標高は200メートル足らずだが、周囲に高い山も無く、360度のパノラマが広がる。東に江ノ島、三浦半島、房総半島、南に大島、伊豆半島など相模湾を一望し、
西には箱根、富士山、北に大山、丹沢山塊、さらには遠く新宿副都心の高層ビルまでが見渡せる。
この山は、古くは阿波多羅山(あわたらやま)と呼ばれ、相模湾やこの地域一帯を見渡せるため軍事上の重要拠点として室町時代以降たびたび城砦としての役割を果たしたようだ。
江戸時代末期頃には、頂上部が平坦に広がっていることから千畳敷(せんじょうじき)と呼ばれ、桜や紅葉の名所としても有名であった。
宿場町だった平塚の宿屋の人たちや遊女等が夕刻、東海道を西に下る旅人に高麗山と浅間山(せんげんさん)を指差して
『あれは箱根の山だから、今から発つと山で夜になってしまう』 と言って騙しては、平塚の宿に泊めたという。
そんなことから「ペテン山」という別名もあったそうだ。
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昭和16年以後高射砲陣地となり、戦後はかなり荒廃していた。昭和32年(1957年)、
平塚市はこの地を自然公園とする計画をたて、逐次施設を整備してきた。
『湘南平』 と命名された歴史は新しく、当時の平塚市長、戸川貞雄氏の選によるものである。展望台は、テレビ塔下部の金網越しにみるものと、レストランやトイレも備えた眺望抜群の立派な展望台の二つがある。
近年、湘南平の名を有名にしてきたのは、テレビ塔展望台の金網にかけられた多量の南京錠だ。
いつの頃からか、「恋する二人の名前を書いた南京錠をここにかけると、一生別れない」 という噂が若者の間に広まった。
かけられた鍵の数は数万個を超えていると思われる。せっかくの景色が見えないくらいなのだ。夕暮れ時ともなれば虫の大群に囲まれているような不気味ささえ感じられた。
暮れなずむ夕焼け空に優雅なシルエットを浮かび上がらせる富士山や、美しくきらめく街の灯り・・・。
湘南平はそれぞれの思いをこの光景に重ね併せ、愛を誓い合う恋人たちの格好のデートスポットになっているようだ。
私が撮影をしていた間も途切れることなく若いカップルが訪れていた。展望台でロマンチックな夜景を堪能した後、初冬の寒む空に聳え立つテレビ塔に向け、二つの影が一つに重なり闇の中に消えていった。 |